
職場でコミュニケーションの行き違いが起きると、
「もっと分かりやすく伝えた方がよい」
「言い方を工夫した方がよい」
という話になることがあります。
もちろん、伝え方を見直すことは大切です。
ただ、現場で起きていることを丁寧に見ていくと、問題は「伝え方」だけではないことも少なくありません。
同じ言葉を聞いても、相手によって受け取り方は異なります。
それは、立場や経験、持っている情報、仕事上の役割、今置かれている状況が違うからです。
たとえば、上司が「早めにお願いします」と伝えたとします。
上司は「今日中」を想定していても、部下は「今週中」と受け取るかもしれません。
どちらかが不誠実なのではなく、言葉の前提が共有されていなかっただけ、ということがあります。
こうしたとき、
「もっときちんと伝えるべきだった」
「普通は分かるはずだ」
と個人の問題にしてしまうと、同じ行き違いが繰り返されます。
必要なのは、伝え方を責めることではなく、
それぞれに何が見えていたのか
を確認することです。
「伝えた」と「伝わった」の間にあるもの
伝える側は、自分が知っている情報を前提に話します。
一方、受け取る側は、自分が知っている情報の中で意味を理解します。
そのため、同じ言葉を使っていても、頭の中に描いている内容が一致しているとは限りません。
職場では、忙しさから確認の時間が省かれやすくなります。
「そこまで説明しなくても分かるだろう」
「聞き返すと、理解していないと思われそう」
こうした遠慮や思い込みも、認識のズレを広げます。
だからこそ、
- いつまでを想定しているか
- どこまでできれば完了なのか
- 相手はどのように理解しているか
を、短い言葉でも確認することが重要です。
確認は、相手を疑う行為ではありません。
一緒に仕事を進めるために、見えている景色を合わせる行為です。
個人の問題として終わらせない
人と組織の課題を考えるとき、私はまず、
「誰が悪いか」
ではなく、
「何が起きているのか」
を整理します。
伝わらない背景には、個人の話し方だけでなく、
- 役割の曖昧さ
- 情報共有の不足
- 確認しにくい人間関係
- 忙しさ
- 上下関係
- 相談しても変わらないという諦め
など、組織側の要因が重なっていることがあります。
表面に見えている言動だけで判断すると、
「話さない部下」
「指示が曖昧な上司」
「コミュニケーションが苦手な人」
という個人評価で終わってしまいます。
しかし、外部から状況を整理すると、個人の問題に見えていたことが、組織の仕組みや関係性の問題として見えてくることがあります。
ここに、「見立て」の必要性があります。
面談や1on1でも同じことが起きる
1on1や面談でも、質問の仕方だけを工夫すれば、本音が出るわけではありません。
「最近どうですか」
「困っていることはありませんか」
と聞いても、相手が
- 何を話してよいか分からない
- 話した内容が評価に影響しそう
- 話しても状況は変わらない
- どこまで話してよいのか判断できない
と感じていれば、深い対話にはなりにくいでしょう。
大切なのは、質問の技術だけではなく、
その場がどのように受け取られているかを考えること
です。
面談する側が「話しやすい場をつくった」と思っていても、相手も同じように感じているとは限りません。
ここでも、自分の見方だけで判断せず、相手には何が見えているのかを考える必要があります。
組織として考えたいこと
コミュニケーションの行き違いが起きたとき、個人の努力だけに任せるのではなく、組織として次の点を確認することが大切です。
- 指示や役割は明確になっているか
- 確認や質問をしやすい雰囲気があるか
- 必要な情報が共有されているか
- 面談が報告や評価だけの場になっていないか
- 管理職だけに対話の負担が集中していないか
伝え方を整えることは必要です。
しかし、その前に、
なぜ伝わりにくい状態が生まれているのか
を考えることで、対策は大きく変わります。
人と組織の問題は、ひとつの言動だけで判断できるものではありません。
個人の声と組織の状況を行き来しながら、背景を整理することが必要です。
伝え方の前に、見えている景色を確かめる
「どう伝えるか」を工夫する前に、
「自分と相手は、同じものを見ているだろうか」
と立ち止まってみる。
それだけでも、対話の質は変わります。
伝えること。
確認すること。
受け取り方を確かめること。
それらを個人の努力だけにせず、組織の仕組みとして支えること。
それが、働きやすさや人材育成、離職防止にもつながっていくと考えています。
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※「人と組織の見立て」では、企業・保育・個人相談を横断しながら、人と組織で起きる出来事を、外部専門職の視点から考えていきます。