
「ちゃんと伝えたはずなのに。」
職場では、そんな場面に出会うことがあります。
説明したつもり。
分かってもらえたと思っていた。
それでも相手の行動は変わらない。
そんなとき、私たちは「伝え方が悪かったのかもしれない」と考えがちです。
もちろん、伝え方を工夫することは大切です。
けれど、私はその前に立ち止まって考えたいことがあります。
もしかすると、「伝わらない」のではなく、お互いに見えている景色が違うのかもしれません。
「伝えた」と「伝わった」は同じではない
私たちは普段、自分が見えている景色を前提に話をしています。
そのため、「ここまで説明すれば分かるだろう」と思って伝えます。
しかし、相手は違う経験を積み、違う役割を担い、違う情報を持っています。
その違いがある以上、同じ言葉でも受け取り方は変わります。
話したことと、相手に伝わったことは、必ずしも同じではありません。
だからこそ、「伝わらない」という出来事は、誰か一人の伝え方だけの問題とは言えないのです。
人は、それぞれ違う景色を見ている
例えば、管理職は
「自主性を大切にしたい」
という思いで見守っているかもしれません。
一方で、部下は、
「放任されている」
と感じているかもしれません。
また、部下は相談したつもりでも、
上司は「報告だけだった」と受け取っていることもあります。
どちらかが間違っているという話ではありません。
それぞれの立場や経験から見えている景色が違うだけなのです。
その違いを知らないまま話し合えば、言葉だけが行き交い、お互いに「伝わらない」と感じてしまいます。
「伝え方」の前に、「見立て」がある
私は企業や保育現場でご相談を受ける際、「誰が悪いのか」を探すことはほとんどありません。
まず考えるのは、
「この人には、何が見えているのだろう。」
ということです。
管理職には管理職の景色があります。
現場には現場の景色があります。
経験の浅い職員には、その人なりの景色があります。
それぞれが見ている景色を知ることで、「伝え方」を工夫する前に、なぜそのやり取りが生まれたのかが見えてくることがあります。
対話は、景色を重ね合わせる時間
対話とは、自分の考えを伝える時間であると同時に、相手が見ている景色を知る時間でもあります。
「伝えること」よりも、
「理解しようとすること」。
その積み重ねが、信頼関係を育て、人と組織の関係を少しずつ変えていきます。
言葉だけを変えても、景色が変わらなければ、同じことは繰り返されます。
だからこそ私は、
相手には何が見えているのか。
その問いを持ち続けたいと思っています。
「話したのに伝わらない。」
その背景には、言葉の問題だけではなく、立場や経験、役割、関係性など、さまざまな要素が重なっているのかもしれません。
伝え方を工夫することも大切です。
でも、その前に、「相手にはどんな景色が見えているのだろう」と立ち止まって考えてみる。
そこから対話は変わり始めます。
※「人と組織の見立て」では、企業・保育・個人相談を横断しながら、人と組織で起きる出来事を、外部専門職の視点から考えていきます。